ebekoです。
今日は少しマニアな話です。
あと大分前の話ではありますが、政治の話が入ります。
皆さんは後藤田正晴という方をご存じでしょうか。
東大を卒業し内務官僚となり警察庁長官を務めた後、田中角栄に誘われ政界に入り当選3回で官房長官を務め、副総理にも選ばれたという異例の人物です。
総理になれるチャンスも2回ほど(野党からも押されたり)あったのですが、彼は理由をつけて断りました。


経歴やエピソードだけ見るとかっこよすぎるんですこの人。

陸上競技をやっていたが、本人は剣道の方が強かったかもしれないと言っている。←運動神経あり

診察の間違いでチフス患者の病棟に入れられたが、親切な看護婦と父親の知り合いであった院長のおかげで個室に移動でき、一命を取り留めることが出来た。←運がめちゃくちゃいい

統制経済だったころ、国民に配給はするからヤミは許さないという考えだった。しかし遅配、欠配がしょっちゅう起こった。すると国民はいやでもヤミをやらざるを得なかった。取締官は買い出し部隊の物資を徴収し、正規のルートで再配給していた。
しかし、これが政府のやる事かと後藤田は思った。取り締まる警察官も闇市で物資を買わないと生きていけなかったからである。警視庁勤務の中で痛切に感じた統制経済の矛盾であった。←現実主義

治安維持に軍隊を使ってはいけない。国民に銃を向けたら終わりである。←国民を守る

政治家はとにかく罰則を強化すれば世の中がおさまると考えがちだが、根っこにメスを入れなければ解決しない。
例としてオイルショック時の「企業による売り惜しみ・買いだめによる罰」は重くすべきという意見も多かったが、後藤田はこれに反対している。その理由は「業界の大手もやっているため事件として検挙すれば国民的な批判が加えられ、会社が潰れることもある。だから刑事罰は軽くすべきだ。加えて罰を重くするとその構成条件が難しくなる。警察としても罰金刑のようなもののほうが運用が楽。世論の批判が高まれば即効性は十分にある。」と述べている。←発想が柔軟

赤ちゃんや老人のいる家庭はいつ病気になるかわからない。そう考えると常日頃からかかりつけの医師を持っていることが重要であり、自宅の近くにとりあえずの処置が出来る医者との交流を使っておかなくてはならない。これは家庭の危機管理である。←危機管理能力がある

危険な場面に自衛隊を出す場合は「やってくれ」という国民的な空気を作るのが大事。十分な論議をせず、ここまでやる、ここからはやれない、ここから先のやる意思はないといったけじめをつけないままずるずるやる場合危険にさらされる自衛隊の立場はどうなるのか。危機管理は最悪の事態を想定しなくてはならない。←総理への諫言が出来る

最初は官房長官を固辞した。理由としては、「官房長官は総理の女房役である。中曽根の裏も表も知る中曽根派の人がやるべきである。」「官房長官になれば私の派閥の長である田中がどう言われるか。」
ただ二階堂進の説得によって官房長官を引き受けることになった。二階堂が言ったことは「これは異常な人事である。君が断れば振り出しに戻る。」ということであった。後藤田は二階堂門下であったこともあり承諾をすることになった。
…などなど。


こういう人って憧れませんか?私は憧れます。
あと「英語をもっと勉強しておけばよかった」と言っている割には進駐軍と問題なく会話できるくらい英語喋れたり
なんか漫画の主人公感がします。最終的にトップには就かないこととかも含めて。
最初の選挙で選挙違反大量に出したあげく、落選したりとかの失敗もあるし。
あと田中角栄のライバルだった福田赳夫にも「あっちに行かなければこちらが誘っていた」と言われたり。
要は政界に求められていた人物だったということです。
誰か後藤田正晴を題材にした漫画描いてくれないでしょうか
絶対に買います。

ただ出世のスピードが速いために田中の子飼いの議員からは恨まれたみたいですがね。
そりゃそうです。田中にだって色々考えていることはあったでしょうが「派閥から総理出すとしたら3番目には来る」と言われてたんですから(これは田中が影響力を失うのを恐れたために言った可能性がありますが)。
子飼いからしたらクラスの中で、カーストは上じゃないけど愛嬌で男子から少しモテてたのに、急に勉強も運動もできる美少女が転校してきてカーストの上に君臨したせいで、影が薄くなったようなものです
そんなことあったら私だって嫉妬しますよ。
色々な文献を読む限り、後藤田がどう思っていたかは知りませんが、梶山静六(現官房長官の菅が師と仰ぐ人)や橋本龍太郎あたりは複雑な思いだったみたいです。
というか梶山は一回本人の前で爆発したみたいですが

後藤田が副総理だった時、それまで通り色々政策とか仕事に口出ししていたわけです。総理の宮澤喜一とかあるいは様々な省庁、自民党執行部にまで。
本来副総理は常設ではなく、政敵を置いておくみたいなポストととらえられたこともあったわけです。
なのに特に総理が止めるわけでもない(宮澤にその能力がなかったのか、後藤田を信頼していたのかは分かりません、仲が悪いとは聞いたことありませんが)。
つまり当時自民党幹事長だった梶山は自分の管轄が侵されるわけです。
短気だった梶山は大激怒。
そして直接言いました。「お前は党のことにまで口出しするのか!! だったら俺が副総理やるからお前が幹事長やれ!!」
後藤田は一応おとなしくなりましたとさ。

これだけ聞くと「怒りすぎだろ梶山」とも思いますよね。
ただその前に法務大臣やってた後藤田が梶山の師匠である金丸信を逮捕に踏み切っているんですがね
そりゃ嫌いにもなるわ。逮捕はでかいって
ちなみに梶山は総裁選に出馬したり、色々頑張っていたのですが(おそらく)、派閥の支配者である竹下登にも途中から支援してもらえず、死去してしまいます。
竹下が派閥の後継者を小渕恵三に決めていたからでしょう。
さらに総理となった小渕の作戦によって政界の中心からフェードアウトしていくわけです。
梶山は漫画化したらライバルキャラに丁度よさそうです
いろいろ問題はあるのでしょうか政治家の権力闘争ほど面白いドラマはないと思います。

とはいっても、反対に言えばこれくらいしか喧嘩を仕掛ける人がいなかったということです。
そもそも後藤田も喧嘩や駆け引きがうまいというのもありますが、最大の理由は彼が警察庁長官を務めたという経歴のせい。
「あいつ、しょっぴいてやる!!」というのが洒落にならないんです。
政界の暴れん坊ハマコーですらおとなしくなるのも納得です(同時に好き嫌いの多いハマコーは後藤田を政治家として認めていましたが)。
自民党議員の選挙違反なんかを県警本部に電話してもみ消す(党内では暗黙の了解)。
必要なら後輩の警察庁長官も使う。
詳細は省きますが、部下の一人である佐々淳行などを内密にアメリカの外務省と通じさせたりもしました(完全なる二元外交)。
その時に「私がやれと言ったとは言うな」って言いましたが。
ただそれで自衛隊派遣の問題とかをどうにかできた部分もあるようですがね。
加えて最大派閥の田中派であり、権力志向が少ない。つまりは誘惑になびかない。
敵にしたら勝てませんよ、こんな人

また後藤田は右寄りでもなく左寄りでもなく中道を進もうとしていたと考えられます。左派の雑誌の取材を受けることもありましたから。
また「私が左翼的であると言うならそれは党内の右傾化が進んでいるのだ」とも言っています。
時代が時代なら自民党にはいなかったかもしれません。
そして政界引退後はご意見番として「日本のよふけ」などに出演しました(本人は笑われるのが嫌でそうとう渋ったみたいです)。
自衛隊派遣に関しては「周辺事態法やテロ特措法によって日米安保が極東以外の範囲に広がった」「自衛隊は専守防衛でなくてはいけない。後方支援だから良いというもんではない」「自衛隊は正当防衛であり自然権である」ということも述べています。


これだけのエピソードがあるなら漫画は書けるはずです。
後藤田に関する小説や本は結構ありますし、昔の本でも「別格」とか書かれたりしていますから。
え?政治に関するものはちょっと…って?
大丈夫です。発想を変えれば戦争をしない「NARUTO」みたいなものですから。
多分吉田茂や田中角栄に勝るとも劣らないおもしろい話が書けると思います。
「日本のよふけ」に出演した時も反響があったようですが、再評価を強く願います。



著名な政治家や政治評論家を集めて「理想の内閣+党役員」とかどこかで特集してほしいですね。
「週刊朝日」では後藤田は官房長官ランキングで平均92.5点でぶっちぎりのトップでした。
ちなみに2位が梶山で77.5点。3位が野中広務で77点でした。
長々と政治の話、失礼しました。